「クラウド版デッドライン仕事術」
吉越浩一郎・立花岳志著、東洋経済新報社刊
「クラウド版デッドライン仕事術」の第一印象
「仕事が楽になるかも♪」
が、本を手にしたときの第一印象だった。
かなりのマニュアルの類が書かれているのだ、とお見受けした。私の経理の仕事を効率化するのに役に立つのではないか、と思った。
「クラウド版デッドライン仕事術」を読み始めた理由
実は、早くにこの本を買っていた。経理の仕事をする私が読むべきであると感じて衝動買いをしていた。が、「積ん読(つんどく)」のままだった。
あるとき、人にお奨めされたのだ。「ぜひ読んでみてください。」と。
「あれ?どこかで見た本だな?あ、家にある!」と気づき、読み始めた。
私のデッドライン人生
私は、バブルがはじけて以来、会計事務所に勤務したのを皮切りに、様々な業種の会社を渡り歩いた経理一筋の人生だった。経理の仕事には、様々な締切りがある。「デッドライン」だ。
例えば、決算。決算は経理にとって、主要なデッドラインを形成する。
会社の決算とは
たいていの企業は、年に1回、決算をする。なぜ、決算をするのかと言えば「税務署に法人税確定申告」をするためである。
日々の企業活動を、年に1度締めて、利益と財政状態を明確にする。そして利益にかかる税を納付する。これが、法人税確定申告である。
無意味な決算
小さな会社、取引の少ない会社は、1年分の会計処理をまとめて記帳して、決算を一気に仕上げることが可能である。
税務署に申告することだけを「経理の目的」であるとするならば、これでも十分だ。極論すれば、大きな会社でも、1週間も集中すれば、1年分の決算はできる。
しかし、この作業に何の意味があるのだろう?
税務署に申告するためだけの作業、、、。まるで、排泄物の処理である。経営者が経理の仕事を重要視しないのは、これが理由である。
意味のある決算と経理の目的
経理の本来の目的は違う。日々の取引を記帳し、貸借対照表・損益計算書に集計することで、企業の財政状況・経営成績が一目で理解できるようにする。これが経理の本来の目的である。
一目で理解できるようになった資料を基にして、経営者は、次の経営判断をする。そしてその経営判断の結果が次の月に明確になる。そして、次の経営判断をする。
この繰り返しこそが、利益を生み続ける経営の秘訣であると、私は固く信じている。
しかし、残念ながら、経理の本来の目的を知る経営者は少ない。
例えるならば、経営は、飛行機の操縦に似ている。
コックピットの中には、天井にまで、所狭しと計器のメーターが埋め込まれている。パイロットは、計器に示された数値を見て、操縦する。
視界が雲で遮られていても、上空高く飛んでいても、飛行機が今現在どんな状況であるかが即座に見て取れる。
貸借対照表・損益計算書を中心とする財務諸表は、この計器に相当する。
仮に、計器が示す数値が5分前の数値だったら、飛行機はどうなるだろう?
今現在の数値ではなく、5分前の状態を表していたら?
間違いなく、墜落してしまうだろう。
それほど、計器が示す数値が新鮮であることが重要なのである。1年に1度、税務署のためだけに決算をすることが、まったくの無意味であることがわかる。
経営判断の基になる、財務諸表の作成は、集計の期間が短いほど有益である。
月次決算の必要性
せめて、一月に一度は、決算をして、財務諸表を経営者に見てもらうようにしなければ経理の存在価値はない。
一月に一度の決算のことを、「月次決算」という。
月次決算を実行するためには、日々の取引はその都度記帳する。締め日が到来すれば、請求書を発行する。請求書が来れば、未払金を計上する。銀行預金に動きがあれば、その都度記帳する。給料の締め日には、給与計算をして、未払金を計上する。等々。
いろんなことをその都度処理して、未処理の事務を貯めない。毎日がデッドラインである。
「クラウド版デッドライン仕事術」を奨める理由
デッドラインを突き詰めて考えると、いろんなアイデアが湧いてくる。本書に示された方法もひとつのヒントになる。著者が時折使う「TTP」というキーワードが面白い。
各章に書かれた内容は、方法論であるが、各章の間に挟まれたコラムの内容がマニュアルだけの味気なさにスパイスを効かせている。
経理事務ほどのデッドラインを意識していない方でも、本書を読めばデッドラインの存在が気になってくる。そして仕事・私生活ともに有意義に楽しく過ごせるようになるのではないか。
日々の仕事に追われている方にぜひお奨めする。